このサイトは、ビジネスの成功に貢献したいと思っているHRのプロフェッショナルと組織マネジメントをより効果的に行いたいと思っているリーダーに対して、私の経験を共有することでお役に立つことを目指しています。
今回は、「リーダーをどう選び、どう育てるか」ということについて書いてみたいと思います。皆さんは、このテーマについて明確な答えを持っているでしょうか?このテーマは、私が人事のプロフェッショナルとして様々な企業で組織変革や業績向上に取り組んできた中で、最も多く議論してきたテーマの一つです。特に変化の激しい今の時代、これまでの経験や実績だけに頼ったリーダー選抜では、重要な“ポテンシャル人材”を見逃してしまうリスクが高まっています。逆に言えば、正しくポテンシャルを見極め、計画的に育成する仕組みをつくることができれば、組織の将来の競争力を大きく引き上げることができます。
今回は、私が実践してきたリーダーシップの「選抜」と「育成」の仕組みについて、「ポテンシャルを見極める3つの視点」、「選ばれた人」を孤立させない仕組み、パフォーマンスマネジメントとの連動という3つの視点からご紹介したいと思います。
ポテンシャルを見極める3つの視点
私がリーダーの選抜において大切にしているのは、「今の役割で期待にこたえる成果を挙げているか」ということに加えて、「将来より大きな責任を担えるか」というポテンシャルがあります。「今の役割で期待にこたえる成果を挙げているか」については、パフォーマンスマネジメントのレイティングが参考になります。では、どうすれば、「将来より大きな責任を担えるか」というポテンシャルを見極められるでしょうか?私は、以下の3つの視点で考えています。
既に今の役割期待の範囲を超えた言動をしている
今の役割に求められる言動を発揮していることに加えて、今の役割に求められる言動をこえた言動をしているかを考慮します。例えば、今課長の役割を担っている人が、課長に求められる言動を行うことに加えて、部長の役割に求められる言動をどのくらい発揮しているかということです。「ポテンシャルは目に見えにくいため判断しにくい」ということを聞くことがあります。しかし、この観点であれば、実際に発揮された言動になるので、目に見えるものになります。
モチベーションの源泉
何に対して熱意を持っているのか、どんなときに最もエネルギーを発揮するのか。その人の「大切にしていることや求めていること」と組織の方向性が重なるとき、大きな成果が生まれます。私はこれを「パーソナルバリュー」と呼び、面談や1on1で深掘りすることを大切にしています。
現在のリーダーの感覚
既にリーダーの役割を担っている人には、「言葉ではうまく表現できないが、あの人にはリーダーとして活躍できることがイメージできる」という感覚をもつことがあります。私は、この実際にリーダーとして担っているからこそのリーダーの“感覚”も大切にしています。もちろん、そのリーダーがリーダーとしてふさわしい言動を発揮していて信頼できる存在であるということが前提です。その感覚が他の人にも理解できるように、できる限り言語化をするサポートをします。そして、言語化されたその“感覚”を他のリーダーたちと議論をして理解を深めていきます。
「選ばれた人」を孤立させない仕組み
次に大切なのが、「選んだ後」の支援です。ポテンシャルのある人をリストアップしただけで終わらせずに、その人が順調に成長するように計画的に育成をしていくことが重要です。その人が、より大きな役割を担えるようになるためには、どこを開発する必要があるかを明確にします。その上で、その開発ポイントを育成できるプランを作成し、実施します。選ばれた人は、時に期待の重圧や周囲からの目に苦しむこともあります。そこで、私は以下のような育成支援の仕組みを構築・実践してきました。
上位の役割の一部を任せる
上位の役割の一部を切り出し、その人に任せるという方法です。例えば、今課長の人であれば、部長の役割の一部をその人に任せてみるということです。この方法は、候補者が上位の役割の業務を実際に練習することができて実践的です。また、上長も自分の業務の一部を任せるため、より具体的にサポートすることができます。更に、仮にその部分に関するその候補者のパフォーマンスが十分でなくても、その上長がリカバリーすることもできるので、組織としてのリスクも抑えることができます。
戦略的兼務
戦略的に兼務をしてもらうという方法です。先ほどの方法が、タテの責任範囲拡大とすると、この方法はヨコの責任範囲拡大になります。例えば、人事ヘッドのポジションへの候補者が、COE (Center of Excellence)の経験が豊富である一方、HRビジネスパートナーの経験があまりないとします。この場合には、今のCOEの役割を担いつつ、いくつかの部門のHRビジネスパートナーの役割も担ってみるということです。これにより、COEとしての経験や専門性を活かして貢献できることに加えて、HRビジネスパートナーとしての経験も積めるため、有能感や貢献感を維持したまま開発ポイントをのばしていくことができます。更に、組織の観点でも、成果を出している今の役割は継続されるのでリスクを抑えることができます。更に、今の役割に加えて兼務業務も行うため、今の役割をチームメンバーにエンパワーメントしていくことが必要になり、そこでの後継者育成も進んでいきます。
候補者は毎回あらいがえ
一見矛盾するかもしれませんが、「選ばれた人を孤立させない仕組み」として、候補者は毎回ゼロベースで見直すことが重要です。一度候補者に選ばれたからといって、常に特別な育成投資を受け続けるのではなく、その時点での役割成果やポテンシャルに基づき、候補者リストを定期的に見直していきます。このプロセスを通じて、選ばれた人とそうでない人の間に不必要な分断を生まず、組織全体の一体感を保つことができます。さらに、候補者の評価や選定は、事前に定めた明確な基準に基づいて行い、その結果は本人にフィードバックするようにします。これにより、候補者に選ばれなかった人にも、今後選ばれるための具体的な努力目標が明確になり、公平で納得感のある仕組みになります。評価・選定のプロセスに透明性と説明責任を持たせることが、組織内の心理的安全性と信頼の醸成につながると考えています。
パフォーマンスマネジメントとの連動
ポテンシャルのある人を計画的に育成するには、人事の他の仕組みとの連動も不可欠です。特にポイントになるのが、パフォーマンスマネジメントです。従来の評価制度は、今の役割に基づく目標が設定され、その目標の達成状況で評価が決まってきました。つまり、過去の成果を評価するもので、未来への成長を促す仕組みという観点では十分ではありませんでした。そこで、私は以下のような工夫をしています。
開発ポイントを育成するアサインメントの目標
今の役割に基づく目標に加え、より上位のポジションを担うための開発ポイントを育成するためのアサインメントに基づく目標も設定します。先ほど述べた、「タテの責任範囲拡大」や「ヨコの責任範囲拡大」に基づくアサインメントがこれに相当します。そのアサインメントで期待される成果を目標として設定します。
一方で、評価やレイティングについては、今の役割の期待値に基づいて行われます。今の役割に求められる成果を出すことに加えて、このアサインメントに取り組めば、自ずと今の役割をこえた成果を出すことになります。そのため、より良い評価やレイティングにつながっていくでしょう。
組織をあげての期中のサポート
パフォーマンスマネジメントでは、期中のサポートは、上長が、そのメンバーが目標を達成できるようにサポートしていきます。リーダー候補者を計画的に育成するためにパフォーマンスマネジメントを活用する場合は、この「上長のサポート」の部分が、「組織としてのサポート」になっていきます。
例えば、上長に加えて、その開発ポイントを育成するのにふさわしい人を組織の中からコーチやメンターとして選び、アサインします。組織外の人にコーチやメンターをお願いすることもあるでしょう。こういった人々が、その候補者が開発ポイントをのばせるようにかかわっていきます。
また、開発ポイントを育成するために、組織としてトレーニングの機会を提供します。社内のトレーニングに加えて、社外のトレーニングもスコープに入れ、その候補者の開発ポイントをより効果的効率的に育成できるトレーニングを選定していきます。
このようにして、組織として、その候補者が開発ポイントを育成できるようにサポートしていきます。
まとめ
今回は、「ポテンシャルを見逃さないリーダー選抜と育成の仕組み」について、私の実体験をもとにご紹介しました。組織の未来を担う人材は、今すでに目の前にいるかもしれません。その可能性に光を当て、適切な経験を提供し、成長を支援するという仕組みを人事がつくることで、組織の中長期的な競争力は大きく変わっていくでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。なお、この記事は私の個人的見解であり、所属組織とは関係ありません。
皆さんは、将来のリーダーをどのように見出し、育成していますか?
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