このサイトは、ビジネスの成功に貢献したいと思っているHRのプロフェッショナルと組織マネジメントをより効果的に行いたいと思っているリーダーに対して、私の経験を共有することでお役に立つことを目指しています。
組織の理解を深めるために、私は、以下の図を使用しています。今回は、Grading(グレーディング)に焦点を当てたいと思います。

なぜグレーディングは重要か?
私は、グレーディングの意図は、「対象となるものの大きさを測ることができて、それぞれの大小を比較することができるようにする」と考えています。例えば、ジョブサイズに基づいたグレーディングだと仮定すると、ジョブAとジョブBがあった場合にそれぞれのジョブの大きさを測定することができて、その結果ジョブAのほうが大きい等、判断することができるということです。これによって、ジョブサイズに応じて順番をつけることができます。
また、グレーディングが明確になることで、他のHRの仕組みとの整合性を取りやすくなります。例えば、グレーディングに応じてタレントアクイジションの基準が決まってきたり、パフォーマンスマネジメントの目標の水準が明確になったり、異動や昇格の基準になったりします。また、グレーディングによってコンペンセーションの水準も決まってきます。このように、グレーディングがあることで、HRの仕組み間の整合性を保ちやすくなります。
先ほどはジョブサイズに基づいたグレーディングを例にしましたが、何に基づいたグレーディングにするかは、その組織の考えによると思います。ジョブサイズに基づいたグレーディングだけではなく、職務遂行能力に基づいたグレーディングや役割に基づいたグレーディングなど、いくつか候補はあると思います。私自身も今まで、ジョブサイズに基づいたグレーディングの他にも、いくつかのグレーディングをまとめたブロードバンディング、役割に基づくグレーディング、職務遂行能力に基づくグレーディングを経験してきました。中には自分でグレーディングを設計した経験もあります。もちろん組織の状況によって異なりますが、私が設計した時は、役割に基づくグレーディングを採用してきました。
役割に基づいたグレーディング
先ほど、グレーディングの意図は、「対象となるものの大きさを測ることができて、それぞれの大小を比較することができるようにする」と書きました。そのためには、大きさの差があると認識されるところに差をつけることが重要だと考えます。更に、大きさの差があると認識するのは、社員やマネジメントメンバーなどそのグレーディングを活用する人々であると考えることも重要です。つまり、彼らが、「グレードAとグレードBには明らかに違いがあって、順番をつけられる」と認識できることが大切です。仮にHRの専門家が「グレードAとグレード BではグレードAの方が大きい」と結論付けたとしても、関係者がその違いを理解し納得していないと、意図通りに運用されない可能性があります。その観点から考えると、役割に基づくグレーディングは、それぞれの役割を定義して違いを認識できるところでグレードをまとめることができます。
例えば、以下のような役割定義をすると、グレード間の違いを認識できるようになります。あくまでもわかりやすさの観点で書いていますので、これが唯一の正解ではないということをご了解いただければと思います。
- グレード1:担当する既存のプロセス等を活用・改善して成果を出す
- グレード2:担当する既存のプロセス等をゼロベースで見直し新たなプロセスを構築して成果を出す。または、現存しないプロセスを構築して成果を出す。ジュニアメンバーがいれば成果を出せるように業務指導する
- グレード3:管理職として組織を率いて成果を出す
- グレード4:管理職の管理職として組織を率いて成果を出す
更に、グレード1をメンバー、グレード2をシニアメンバー、グレード3をマネージャー、グレード4をディレクターのように呼称をつけると、より明確になります。もちろん、これが全てではありません。実際に、私自身も、組織の状況に応じてグレードの数を増やした経験があります。皆様の組織の状況に応じて修正していただければと思いますが、ポイントは、関係者が違いを認識できるところに違いをつけるということです。
ジョブサイズに基づいたグレーディング
ジョブサイズに基づいたグレーディングを採用している組織もあると思います。ジョブディスクリプションに基づいてジョブサイズを測定し、そのジョブサイズに応じてグレードが決まってくる仕組みです。ジョブサイズに基づくグレーディングが意図通りに機能するためには、私は、以下のポイントを考慮することが重要だと考えています。
- 関係者が理解しやすく納得しやすいジョブサイズの測定方法を構築する
- 管理職以上がジョブディスクリプションを正確に作成できるスキルを習得している
- ジョブディスクリプションが変更されるたびにジョブサイズを測定し直しグレードに反映する
私自身もジョブサイズに基づいたグレーディングを運用した経験がありますが、上の3点をすべてクリアするのは非常に困難であると感じました。例えば、1の実際の方法として、ジョブサイズを測る要素を洗い出しその要素を点数化してその点数を合計した総合点数でジョブサイズを測る方法や、基準となるジョブを決めてそのジョブの大きさと相対的に比較してジョブサイズを決めていく方法等があると思いますが、私自身の経験では、これらの方法を用いても、関係者からの「なぜこのジョブはあのジョブより大きいのか」といった質問に対して納得感を持ってもらうことが難しいと感じました。また、2のためにはトレーニングを実施するために時間を確保する必要があり、また、ジョブディスクリプションを作成する度にサポートやチェックのための時間が必要になったりしました。3についても、運用上相当数の時間が必要になり、組織によっては必要があってもジョブディスクリプションを修正することはせずグレーディングが形骸化してしまったというようなことを聞いたこともあります。また、これらのことを克服するために、ジョブサイズに基づいたグレードを大くくりにまとめたブロードバンディングの仕組みに移行していったところもあると聞いたことがあります。
職務遂行能力に基づいたグレーディング
職務遂行能力に基づいたグレーディングを採用している組織もあると思います。一般的に日系企業で採用されていることが多いそうです。その仕組みは、職務ではなく人の能力に基づいてグレードが決まってくる仕組みです。職務遂行能力に基づくグレーディングが意図通りに機能するためには、以下のポイントを考慮することが重要だと考えています。
- 関係者が理解し納得する職務遂行能力の測定方法を構築する
- 職務遂行能力と担っている職責にギャップがないように配置する
- 変化の激しい状況において、求められる職務遂行能力が変更する度にアップデートしグレードに反映する
職務遂行能力に基づいたグレーディングの場合、該当するグレードの職務遂行力を保有しているとその人にその該当するグレードが与えられることになります。1で重要ポイントは、保有しているかどうか自体を認識することが非常に難しいということです。行動としてその能力が発揮されていると、その行動から該当する職務遂行能力を有していることを判断することができます。逆に言うと、実際に行動として発揮する機会が乏しい場合には、仮にその能力を有していたとしても、その能力があるかないかを判断することは難しいということになります。場合によっては、評価者の主観や推察が入ったり、年功的な運用が行われたりすることもあると聞いたことがあります。2については、ポジションがなくても昇格することができるので、個人のモチベーションにつながったり、リテンションのアクションとして活用できたりするというメリットがある一方で、人件費が高騰する原因になりえてしまいます。職務遂行能力としては高いためより高いグレードが付与される一方で、その人がその高い職務遂行能力を期待されないポジションを担っている場合、その人が出すパフォーマンスとその人の人件費が見合わず、コストのほうが大きくなってしまうということも起こり得ます。3については、今まで重要であった能力が、テクノロジーを含む環境の変化によってあまり重要ではなくなることがあり得ます。逆に今まではそれほど重要視されていなかった能力が変化によってより重要になるということも起こり得ます。こういった環境下においては、職務遂行能力を適宜アップデートしていくことが必要です。それによって位置づけるグレードが変更することもあるので、適切なグレードに修正していくことも必要です。
以上のことから、私が設計する際には、役割に基づくグレーディングを選ぶことが多いのですが、他のグレーディングも効果的に運用されている場合があると思います。皆さんの経験や視点を共有していただけると嬉しいです。
まとめ
今回の記事では、グレーディングについて述べました。ご覧いただきありがとうございます。今回のポイントが皆様の業務に役立つことを願っています。なお、この記事は私の個人的見解であり、所属組織とは関係ありません。
皆さんの組織では、どのようなグレーディングを採用・運用していますか?
コメント