パフォーマンスマネジメントの本質と実践法

パフォーマンスマネジメント

このサイトは、ビジネスの成功に貢献したいと思っているHRのプロフェッショナルと組織マネジメントをより効果的に行いたいと思っているリーダーに対して、私の経験を共有することでお役に立つことを目指しています。

組織の理解を深めるために、私は、以下の図を使用しています。今回は、パフォーマンスマネジメント(Performance management)に焦点を当てたいと思います。

 

パフォーマンスマネジメントとは?なぜ重要か?

私は、パフォーマンスマネジメントは、「その年の目標を達成しやすくする仕組み」だと考えます。そして、このポイントが最も重要だと考えています。つまり、パフォーマンスマネジメントを設計し、運用する際に、このポイントと照らし合わせて整合性がとれていれば、上の図のPerformance mgmt.のところは緑色に塗りつぶすことができます。組織のリーダーの皆さんがご自身の組織でパフォーマンスマネジメントを実践される際には、「これによって、今年の組織目標を達成しやすくなるだろうか?」と自問されることをお勧めします。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、私はパフォーマンスマネジメントをより広い概念でとらえています。ですので、MBOやOKRなどの概念も含みます。私は、ビジネスの成功につながるHRの仕組みという観点においては、パフォーマンスマネジメントもMBOもOKRも「その年の目標を達成しやすくする仕組み」としてひとくくりにとらえています。

では、「その年の目標を達成しやすくする」ためには何が必要でしょうか?是非少し時間をとって考えていただければと思います。

 

 

極論をすると、今皆さんが考えてリストアップされたことがパフォーマンスマネジメントに必要なことになります。

私がどのようなことをリストアップしているかについて書いていきたいと思います。

 

目標設定は会社の存在意義(パーパスやミッション)から

まず、パフォーマンスマネジメントは「その年の目標を達成しやすくする」仕組みなので、その年の目標が必要になります。最終的には、その年の個人の目標を明確にできればベターですが、ビジネスモデルや組織カルチャーによっては難しい場合もあり得るでしょう。その場合は、可能な限り小さい単位での目標を明確にすることになります。ここからは個人の目標が設定できるという前提で進めます。

個人の目標を明確にするためには、その個人が属しているチームの目標が明確になっている必要があります。そのチームの目標を明確にするためには、その上位組織の目標が明確になっている必要があります。そうすると、目標のスタート点は、どこになるでしょうか?

私は、その会社の存在意義(Reason to exist)からスタートしています。私は、存在意義は、その会社が世の中に存在する理由であり、その会社が究極的に達成したいことと定義しています。つまり、存在意義は、その会社にとって究極的に達成したい目標になります。

存在意義は究極的に達成したいことなので、方向性はある程度明確ですが、一方で抽象的で社員のイメージも異なる場合があります。そこで、存在意義をより具体的にしたものが長期目標(Long-Term Goals)で、長期目標によって社員の達成イメージが統一されやすくなります。ビジョンも長期目標の一つです。存在意義をVisualizeしたものがVisionと認識しています。

ですので、存在意義からスタートして、長期目標、その年の会社の目標(Short-Term Goals)、それぞれのチームの目標、個人の目標がつながっていることが重要です。いわゆるSMART目標のR(Relevant)です。

それぞれの目標は、SMARTの原則に従って設定することも重要です。S(Specific)、M(Measurable)、A(Achievable)、R(Relevant)、T(Time-bound)になりますが(AがAttainableのように若干表現が異なる場合もありますが、大意はほぼ同じです)、SMART目標の詳細については、別のサイト等をご参照ください。

中には測定できない目標もあり得ますが、その場合には、どういう状態になれば達成したといえるかについて同じイメージを持てるように上長と話し合うことをお勧めしています。

 

自分事化された目標となるために

私は、SMART目標にさらにひと手間を加えます。SMART目標は会社の存在意義からスタートして個人に設定された目標です。つまり、会社の目標を達成するために、個人が担っている役割に対して達成することが期待されている目標になります。ということは、会社軸が中心になっています。誤解を恐れずに誇張して表現すると、「そのポジション・役割を担っているのだから〇〇を達成することを期待している」という会社からのメッセージです。組織カルチャーによっては、契約としてとらえられているところもあるでしょう。ここには個人軸の観点は入りにくい構造になっています。

「会社からの期待だから」ということで、それに意欲を感じてモチベーション高く取り組める人であれば、会社軸の観点でのSMART目標で十分でしょう。しかし、それだけではモチベーション高く取り組むことが難しい場合は、期待されたところまでは取り組むが、それ以上の成果を出すところまではいきにくくなります。私の経験からは、後者のほうが多く、その割合もだんだん増えていると認識しています。そのためにレイティングでExceed Expectationなどがありますが、それでもExceed Expectationなど最上位のレイティングがつく水準までは取り組むものの、最上位のレイティングがつく水準をはるかに超えた成果を望むのは難しいでしょう。場合によっては、会社軸に基づいて作成されたSMART目標の水準をいかに下げるかに焦点を当てた議論が起こってしまうこともあり得ます。

私がSMART目標にひと手間かけていることとは、SMART目標に個人軸(私軸)を考慮するということです。個人軸を考慮するには、個人の価値観からスタートします。私は、価値観とは、その人が良い・悪い、好き・嫌い、楽しい・楽しくないなどを感じる基準であり、今までのその人の生き方によって形成されているものととらえています。個人の価値観の見つけ方については、こちらをご参照ください。

個人の価値観が満たされると、その人は「良いことをしている、楽しい、充実している」のように感じられるようになります。そこで、会社軸に基づいて設定されたSMART目標と個人の価値観をつなげることを行います。「この目標の達成に取り組むことで、私の価値観をどのように満たすことができるか?」についてその個人が考えます。さらには、その人が自身のキャリアについて明確な考えがあれば、「この目標の達成に取り組むことで、私のキャリアにどのように役に立つのか?私のキャリアビジョンの実現にどのように近づけるのか?」についてその人自身が考え、自分の回答をつくります。つまり、会社軸のSMART目標に取り組むことが個人軸を満たすことにつながるという解釈を自分でつくり、意義づけを行います。そうすると目標が与えられたやらされるものではなく、自分事化しやすくなります。

 

パフォーマンスマネジメントの仕組み上の問題

パフォーマンスマネジメントでは、個人の目標を明確にすること、個人の目標が会社の目標につながっていること(会社軸)、会社軸と個人軸をつなげることで目標を自分事化できることに役立ちます。つまり、会社―個人のラインのつながりは明確ですが、一方で仕組みとして同僚間や他部門などとの協働を促すものではありません。パフォーマンスマネジメントでは、その個人の目標を他の部門の人々が具体的に把握していることは稀であることが一般的だと思います。そうすると、上位目標とRelevantな個人目標が自分事化していることで、かえってサイロを助長したり、部門間の対立が起きたりといったことが起こる可能性があります。

例えば、わかりやすさのために敢えて誇張しますが、営業部門の人の目標が売上を伸ばすこと、商品企画部門の人の目標がより斬新な商品を企画すること、製造部門の人の目標が製品不良率を下げること、サプライチェーン部門の人の目標が在庫を切らさないことだったとしたら、それぞれの人が個人の目標達成のために取り組めば取り組むほど、他部門の人々との対立が起きても不思議ではありません。

これに対して、私は運用の仕方によってカバーしました。具体的には、ワールドカフェの手法を参考にしました。まずは、同じ部門の人々でグループを作り、自部門と個人の目標を確認します。その後、自部門のグループに残る人を決め、その他の人は別の部門のグループに行って部門横断のグループを作ります。新しいグループで、それぞれの目標を共有します。その後、最初の同じ部門のグループに戻って、他部門の目標を共有します。その際に、自部門はそれぞれの他の部門の目標達成にどのように協力やサポートができるかについて話し合います。最後に、話し合った内容を共有して、ワークを終了します。このワークの冒頭で部門をこえたグループでお互いの価値観を見つけるワークを行うと、より一体感を高めることができます。その後、定期的に話す機会を設けて、他部門の人々が具体的にしてくれた協力やサポートに対して感謝を示すということを行います。

この取り組みにより、最初は他部門に対して否定的な発言が見られていたところから、より協働が進み、一体感をもって業務が遂行されるようになりました。さらに、他者や他部門の人々から直接感謝の言葉を受け取る経験を通じて、自分の業務の重要性を再確認し、更にモチベーションが高まるということも起きました。

 

まとめ

以上、今回は「パフォーマンスマネジメント」について書きました。具体的には、

  • パフォーマンスマネジメントとは?なぜ重要か?
  • 個人がより自分事化して積極的に達成するために取り組めるようにするための目標設定の仕方
  • パフォーマンスマネジメントの仕組み上の問題

もちろん、上に書いたことがすべてではないので、参考にしていただきつつ皆さんなりのやり方を見つけていただければと思います。

そして、重要なことは、「私は、目標の達成にワクワクして取り組んでいる。」という質問に「Yes」と答えられるように、必要なアクションを計画して実行することです。

最後までお読みいただきありがとうございます。少しでも皆様のお役に立てば幸いです。なお、この記事は私の個人的見解であり、所属組織との関連はございません。

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