このサイトは、ビジネスの成功に貢献したいと思っているHRのプロフェッショナルと組織マネジメントをより効果的に行いたいと思っているリーダーに対して、私の経験を共有することでお役に立つことを目指しています。
今回は、HRビジネスパートナーとCOE(Center of Expertise)がどのように協働するのかついて書いてみたいと思います。HRビジネスパートナーとCOEとの協働については、規模や組織の状況等に応じて変わってくると思いますが、私が考える基本のパターンについて議論をしていきます。
HRビジネスパートナーは、現場の知識や洞察を基に、部門ごとの特性に応じた対応や支援を通じて、組織のビジネスの成功に貢献する役割を果たします。HRビジネスパートナーが究極的に行うことについては、以前の記事で書きましたので参考にしてください。
COE (Center of Expertise)とは?
COEは、Center of Expertiseの略であるように、その専門領域における中心的存在になります。例えば、タレントマネジメントやCompensation & Benefit、Employee Relationなど、その専門性を深くもち、その深い専門性を活用して組織のビジネスの成功に貢献する役割です。
COEが究極的に行うこと
COEは、その専門性を活用して組織のビジネスの成功に貢献します。私は、COEが究極的に行うことは、下の図を活用して、「自らの専門領域における人事の仕組みを整合性のあるように設計し、運用されるようにすること」と考えています。組織のReason to exist(存在意義)やValues(価値観)、Long-term goals(長期目標)、Strategy(戦略)と整合するように自らの専門領域における仕組みを設計していきます。

その際に、キーワードは、意図、内容、運用です。意図とは、その仕組みがReason to existやValues、Long-term goals、Strategy等と整合性を保てるように意図を明確にします。内容とは、その意図を実現できる内容にすることです。運用とは、その仕組みが仕組みの意図通りに運用されているようにするということです。
例えば、パフォーマンスマネジメントの仕組みであれば、組織のReason to existやLong-term goals、Strategyから考えられたその年度の組織の目標を達成しやすくするという意図を明確にします。その意図を実現できるための中身として、目標設定の仕方や時期、継続的な会話の仕方や時期、レイティングの内容やつけ方、時期等を設計していきます。意図を実現しやすくするためのテンプレートやガイドブック、研修なども開発します。全社への説明会や研修もリードします。そして、その仕組みが意図通りに運用されているかを確認し、意図通りに運用されていないのであれば、仕組みにおける原因を特定して解決策を立案・実行していきます。運用がどのようになされているかについて、HRビジネスパートナーから状況を確認することもあるでしょう。
HRビジネスパートナーとCOEの協働:ツールの開発と展開
HRビジネスパートナーとCOEの協働の一つ目は、「ツールの開発と展開」です。上の議論の中でもあったように、ツールの開発はCOEがリードします。ツールの展開については、全社に対してはCOEがリードしますが、HRビジネスパートナーは現場での実情を踏まえたフォローアップや調整を行うことで、部門ごとに最適化された運用を実現します。HRビジネスパートナーの現場での視点とCOEの専門知識が組み合わさることで、ツールの意図が効果的に浸透するのです。
例えば、私の以前担当していた組織では、パフォーマンスマネジメントにおいて、目標達成のための会話が十分に行われていないケースがあり、組織目標を達成するためのプロセスにおいて、改善の余地が見られました。そこで、COEはパフォーマンスマネジメントに関する研修を実施し、パフォーマンスマネジメントとはどのような仕組みなのか、目標を達成できるように継続的に上司と部下で会話することの重要性やそのやり方等について理解と練習の場を設けました。更に、テンプレートに毎月会話した内容を書ける場所を作成しました。トレーニングで行った、具体的にどういった内容の話をすればよいかを明確にするために、会話の内容を「称賛(良かった点や継続して欲しい点)」と「提案(目標を達成する上での提案)」の項目で書けるようなテンプレートにしました。
その際に、COEはHRビジネスパートナーから現状がどうなっているのかについてヒアリングを行い、また、自らも部門の人々にヒアリングを実施して理解を深めました。その理解に基づいて必要なアクションとして、実態に即したトレーニングの開発や実行、テンプレートに毎月の会話の内容が書ける項目を追加しました。
HRビジネスパートナーは、自らが担当する部門において、パフォーマンスマネジメントが意図通りに運用されるように、トレーニングで学んだ内容が実施されているか、ツールが活用されているかをフォローしました。また、COEの組織全体へのコミュニケーションでは十分に対応しきれない、部門特有の課題や状況に適応したサポートを提供しました。具体的には、各部門のミーティングで、トレーニング内容を現場で実施してみた後に生じる各マネージャーの疑問に応えたり、テンプレートの活用方法について現場に即したアドバイスを行ったりしました。
必要に応じて、HRビジネスパートナーは、その部門での話をCOEにフィードバックしました。また、より専門的な知見が必要な議論には、COEがその議論に参加しました。
このような取り組みによって、目標を達成するための定期的な会話が実践されるようになり、「何を話せばいいのか明確になったので取り組みやすかった」「定期的に話したことで評価の納得感が高まった」等のコメントも寄せられました。
HRビジネスパートナーとCOEの協働:課題の特定と解決策の立案
HRビジネスパートナーとCOEの協働の二つ目は、「課題の特定と解決策の立案」です。ここでは、組織全体の課題ではなく、HRビジネスパートナーが担当している個別部門の課題についてです。個別組織の課題の特定は、HRビジネスパートナーが現場の視点を基にリードします。COEは、その専門知識を活用してHRビジネスパートナーと連携し、課題に適した解決策を共同で立案します。この協働により、現場の具体的な課題に対して戦略的かつ実効的なソリューションを提供できるのです。
例えば、HRビジネスパートナーが担当しているある部門で、各チーム間の協働が弱く非効率になっていることがありました。HRビジネスパートナーは状況を分析して、職種別組織になっているため、各チーム間の交流も弱くお互いのことがよくわかっていないことが明確になりました。また、目標についても、上司と部下間では明確に設定されていた一方で、他の人がどのような目標に取り組んでいるのかは共有されていませんでした。このような分析から、他の選択肢も色々と考慮したうえで、HRビジネスパートナーは、各自の目標の共有をするのがいいのではないかと考えました。HRビジネスパートナーがCOEに相談したところ、COEは、他の手法も考慮したうえで、その状況ではワールドカフェ方式を活用して目標の共有を行うのが良いのではないかと考えました。
まずは、自チーム内でそれぞれのメンバーの役割と目標を共有し、それぞれのメンバーの目標がチームの目標にどのように貢献しているのかについて理解を深めました。その上で、自チームのテーブルに残る人と、他のチームのテーブルに行く人を決め、他のチームのテーブルに行く人は、そのテーブルで他のチームの役割と目標を理解し自チームの役割と目標を説明しました。それをもう1ラウンド行った後で、最初の自チームに戻って他のチームの役割や目標を自チームのメンバーに共有しました。その後に、自部門の目標を達成するために各チームがどのように貢献しているのか、他のチームの役割遂行や目標達成のために自チームで何ができるかについて話し合いアクションを明確にしました。最後に、各チームよりそのアクションを共有して終了しました。
この施策を行った後は、「他のチームがどんなことを行っているのかが具体的に分かって、どのようにサポートをすればよいか明確になった」「隣の人とこうしていくともっと効率的になるとわかった」などの感想が寄せられ、部門の一体感が高まりました。
まとめ
今回は、HRビジネスパートナーとCOEがどのように協働するのかについて、「ツールの開発と展開」と「課題の特定と解決策の立案」という2つの観点から述べました。これらの役割はそれぞれ独立しているようでありながら、補完的な関係にあり、HRビジネスパートナーとCOEが互いの強みを生かし連携することで、ビジネスの成功に大きく貢献します。ご覧いただきありがとうございます。これらはあくまで私自身の経験と考えに基づくものですが、多くの方々にとっても有益なヒントとなることを願っています。私自身もこれらの経験から多くのことを学びました。なお、この記事は私の個人的見解であり、所属組織とは関係ありません。
皆さんは、HRビジネスパートナーとCOEの協働はどのようなものがあると思いますか?
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