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組織の理解を深めるために、私は、以下の図を使用しています。今回は、長期目標(Long-Term Goals)に焦点を当てたいと思います。

長期目標(Long-Term Goals・ビジョン)とは?
私は、長期目標を「中長期的に組織が達成したいことや状態」と定義しています。中長期の期間は組織によって異なりますが、3年後や5年後を想定することが一般的だと思います。また、これはビジョンや他の言葉として表現されることがあります。
なぜ長期目標?
では、なぜ長期目標が必要なのでしょうか?存在意義だけで十分ではないでしょうか?
存在意義は、組織がなぜ世の中に存在するのか、その究極的な目的を定義するものと考えています。一般的に、これは気持ちを奮い立たせてくれるものである一方で、抽象的で具体性に欠けることがあります。何のために存在しているのかを突き詰めていくと、「ハッピー」の概念にたどり着くことが多いと感じています。ですので、存在意義としては、「ハッピー」の概念をその組織固有の表現でブレイクダウンしたフレーズになっていることが多いです。このため、そのフレーズは魅力的でもありますが、具体性が欠けるため、人々が異なるイメージを抱く可能性があります。大まかな方向性は共通していますが、詳細は個人によって異なることがあります。
そのために長期目標が必要だと考えています。3年後や5年後にその組織は何を達成したいのか、どのような状態になっていたいのかを定めることで、組織の人々が同じようなイメージを持って、より推進力が高まると考えています。
存在意義を3年後や5年後の姿としてビジュアライズ(visualize)したものが、長期目標と考えています。存在意義によって大まかな方向性を共有しその内容に気持ちを高ぶらせた個人の集団が、長期目標によって達成イメージを共通化して、より一体感をもった組織となってその達成に組織としての力を発揮していくことができるようになると信じています。
以上のことから、長期目標は、組織のメンバーにとって、是非実現したい・達成したいと思えるようなものである必要があります。次のパートでそのような状態にするにはどうすればよいかについて書いてみたいと思います。
長期目標をどのように創るか
長期目標は、3-5年後にその組織がどんなことを達成したいのかや、どのような状態になっていたいのかを定めたものです。ですので、3-5年後がどのような世の中になっているのかを想像する必要があります。その際に、私が行ってきたことは、2倍の年数で考えてみるということです。3年後であれば6年後、5年であれば10年後の世の中を想像してみます。特に2倍に深い意味はないのですが、想定している年数よりもより長い年数を考えると、想定している年数はその途中にあるので、よりイメージしやすいという考えからです。ここからは5年後の長期目標をつくることを想定して書いてみます。
5年後の長期目標を作るにあたり、10年後を想像します。観点としては、いろいろなフレームがあるので、ご自身にあったフレームを見つけていただければと思います。例えば、PESTというフレームも参考になります。「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の観点で10年後を想像してみます。PESTのほかにも、5 forcesや3Cなどのフレームも参考になるので、ご興味のある方は調べてみてください。
ここで大切なのは、それぞれのフレームを埋めることではなく、それぞれの観点で埋めてみて、そこから10年後はどんな世の中になっているのかを想像してみることです。
それだけで10年後を想像することが難しい場合は、10年前を参考にします。10年前はどんな世の中だったのかをPESTなどのフレームによって理解するようにします。10年前がどんな世の中だったのかを理解したうえで、今をみて、この10年間で何がどのように変わったのか、また、変わらなかったのかを理解します。そして、今から同じ時間がたった10年後はどのように変わっているのか、変わっていないところはどこかを考えると、より想像しやすくなると思います。
また、変化の速度を考慮するには、10年前のさらに10年前、つまり、今から20年前を理解することも役に立ちます。20年前から10年前と、10年前から今と、同じ10年という年月ですが、変化のスピードは結構違っていることが認識できると思います。「加速度的な変化」と言われていることが実感できるところとあまり当てはまらないところも認識できるはずです。
このような方法で、10年後のビジネス環境を想像し、その中で組織が達成したい目標や望んでいる状態を明確にしていきます。
組織のメンバーが、是非達成したいと思えるような長期目標を創るためには、この創る段階から全員を巻き込めると効果は高いです。しかし、組織の規模や経営陣の考え方によっては現実的ではないこともあると思います。その場合は、創った長期目標を社員に展開していくことになります。その方法について次のパートで書いてみたいと思います。
長期目標をどのように展開するか
できあがった長期目標を展開する方法はいくつかありますが、私は、ある一つのことを行えば必ず社員が是非達成したいと思えるようになるとは思っておらず、複数の施策が必要になると考えています。全体プランを作るものの、ある施策を行ってみてその反応を観察します。その状態に応じて全体プランを調整し、追加の施策が必要であればそれを考えてまた実行します。こういったことを繰り返すことで、最終的に社員が是非実現したいと思えるようになっていくと思います。「会社の長期目標」から、「私の長期目標」、ひいては「私たちの長期目標」になるように必要な施策をその都度考えて実行する覚悟をもって取り組む必要があります。
ここでは、私が実際に行ったことを書きたいと思います。
自分の価値観と長期目標をつなげるというワークショップを行いました。以前の記事で書きましたが、私は、個人の価値観とは、「その人の価値基準を決めることであり、その人にとって良いことと悪いこと、好きなことと嫌いなこと、楽しいことと楽しくないことなどを決める判断基準である」と理解しています。つまり、個人の価値観が満たされれば、その人は良いことをしている、好きなことをしている、楽しいと感じられるということです。
個人の価値観を長期目標とつなげることで、長期目標を実現することはその個人にとっては良いことであり楽しいことであると考えられるようになります。そうすると、是非実現したいと思え、自発的な行動が促されることにつながります。
具体的には、まず個人の価値観を数人のグループで特定します。詳しくは以前の記事をご参照ください。
次に、長期目標を作成した人が、どのようにしてこの長期目標を作成したのかについて説明します。その際に、一つ一つの言葉を選んだ意図やその選んだ言葉に込めた想いも含めて説明します。方法としては、作成者本人がその場にきて説明したこともありますし、事前に撮影した説明の映像を流したり、読み物にしたものを配布して読んでもらったりしました。おそらく正確に分析するとそれぞれの効果は違うと思いますが、実務として私が行った感覚でいうと、それぞれの効果の差はあまりなかったと認識しています。ですので、それぞれの組織の状況に応じて選択いただければと思います。なにより重要なことは、そのワークを推進する人のパッションだと思いました。
その後、個人で自分の価値観と長期目標をつなげること行いました。長期目標が創られた背景や作成者が込めた想いを理解したうえで、自分の価値観と近いところを自分で見つけるということを行いました。
自分の考えがまとまったら、数人の小グループでそれぞれ共有し合いました。ここでは、相手の発表を理解して、自分が考えていなかった観点をみつけ、その観点でもう一度考えた場合に自分にはどう当てはまるのかについて考えながら聞くことを行いました。
ワークショップの他には、長期目標の作成者との対話も行いました。特にワークショップで作成者からの解説を映像や読み物で行った場合は、この対話の機会は重要でした。ワークショップ内で作成者本人が直接説明した場合でも、ワークショップ内であると時間の関係もあるので、別途対話の場をもつことには意味がありました。
この対話の場では、作成者のこだわりや意図を伝える一方で、参加者からの質問に答えることを行いました。これによって、参加者の疑問が解消されより理解が深まるだけでなく、作成者自身の盲点や主観的になっていたところが明確になり、より説明の精度も高まりました。
これは、長期目標の展開時に加えて、展開後しばらくたってからも行いました。初めて長期目標を聞いたときと、その理解の上で日々の業務に取り組んでしばらくたった後では、理解度や疑問点などが変わってきました。また、日常の業務に忙殺されると、どうしても目先の業務を遂行することが目的になりやすいこともあると思います。なので、定期的に業務を離れて長期目標の話をすることで、リフレッシュした視点で長期目標に向き合うことができ、その時の疑問点を解消することもできるので、より長期目標の理解が深まり自分事化につながりました。
これ以外にもありますが、大切なポイントとしては、上に書いたような長期目標への社員の感情のアタッチメントを強くすることに加えて、それぞれの人事の仕組みが長期目標と整合しているように設計・調整することです。もちろん、以前の記事で扱った存在意義と整合性がとれていることも含まれます。
まとめ
以上、今回は「長期目標」について書いてみました。具体的には、以下について書きました。
- 長期目標とは
- 長期目標が重要な理由
- 長期目標の創り方
- 長期目標の展開の仕方
もちろん、上に書いたことがすべてではないので、参考にしていただきつつ皆さんなりのやり方を見つけていただければと思います。
そして、重要なことは、「私は、長期目標を実現することにワクワクして取り組んでいるか?」という質問にイエスと答えられるように、必要なアクションを計画して実行することです。
最後までお読みいただきありがとうございました。少しでも皆様のお役に立てば幸いです。なお、この記事は私の個人的見解であり、所属組織との関連はございません。
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